1982年5月21日金曜日

出発の日

朝4時に起きました。5時には出発の予定です。

昨夜は同じ下宿の友人である岡田君が、あまり強くないのに最後の酒飲みに付き合ってくれました。彼は「見送ってやる」と言いましたが、まだ起きて来る気配はありません。

全ての装備を取り付けられ僕と同じ位の重量になった自転車が、きれいに片づいた下宿の部屋の壁に立てかけてあります。注意深く道路に出した時には、もう出発まで10分程になっていました。やはり友人は出て来ません。僕は、一人が好きなくせに別れが大の苦手です。はやる気持ちも手伝い、予定より5分程早く出発することにしました。

こんなに荷物を積んで走るのは初めてです。が、とても安定していて走りやすい。この前までレーサーに乗っていたので、スピードの遅さにいらだちつつも、考えてみればそれはあたりまえのことです。直ぐにペースを掴み、まだ明けたばかりの名古屋の町をひた走ります。

走りが退屈なせいか、いろいろな事を思い出します。名古屋での3年間。友人や好きだった人。楽しい思い出。なんでこの生活を捨てなければいけないのか。本当に自転車での旅は、自分にとって必要な物なのか。
もし今ここで自転車を止め、向きを変え、あの下宿に戻れば、また昨日までと同じ楽しい日々が待っているではないか。またあいつらと呑んで騒げる。好きな人と別れることもない・・・。

考えるうちに国道41号線にのり、岐阜県へ。じきに登りの多い道となり、汗がふきで始めたあたりでようやくふっきれました。これが僕の知る道。身も心もやっと出発点に立つことが出来ました。

この日は、高山市の手前の国道脇の空き地でキャンプ。何を食べたかは覚えていません。でも、ビールで祝杯をあげたのは間違いありません。

走行距離、約150km。